王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
キットはウィルフレッドと同じように腕を組むと、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「んなわけねーだろ。俺は最初っから行かせねえって言ってる」
「だっ、だけど……!」
薄々はわかっていたことだが、ウィルフレッドがそう簡単にエリナを差し出すわけもないのだ。
だが、妙に執着のないキットとは違って、もともとウィルフレッドはキットの命を救うためにウェンディとの婚約話を承諾したのだから、彼だって何としてもキットには生きていて欲しいはず。
エリナかキットか。
天秤に掛けさせるのは酷なことかもしれないが、エリナがランバートの望みに応えたところで死ぬわけではないのだから、答えは一目瞭然だとエリナは思うのだ。
「ラズベリーを譲ってもらうには、それしか方法がないんです!」
「うーん……陛下は何て?」
ウィルフレッドとしてはどちらの言い分もよくわかるし、どちらの言い分も通したくないものだ。
別の可能性はないものかと国王の方の動向を伺ったのだが、そっぽを向くキットは鼻の頭にシワを寄せたままで、そちらも難航していることはすぐにわかった。
「今年収穫できたラズベリーを国に記念贈呈しないかと持ち掛けて断られたらしい。あいつは王家の言いなりになるようなことは絶対にしない。ここまでエリナにこだわるのも、お遊びのつもりで声をかけた女を俺が必死でかっさらったからだ」