王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
自分の命がかかった果実の材料だというのに、半ばぞんざいな手つきで瓶の中に花びらを押し込む。
キットがこんな態度だから、元の世界へ戻るという本来の自分の目的より、彼のことを心配してしまうのだとエリナは思う。
「「『甘く香しいはちみつにブルーローズの花びらを一枚浸し、銀色の月夜を三晩眺め、恋する乙女は涙を流した。』……恋する乙女が涙を流すって、どういうことなんだろう」
エリナは小瓶を目の高さに掲げたまま、歴史書にあった一節を思い出してみた。
キットも彼女の疑問に何かを考えるような表情にはなったが、片方の眉を器用に上げたその表情はどちらかと言えば、誰かのいたずらを暴こうとするような顔だ。
歴史書にあることを真剣に考えている表情とは少し違う気がする。
キットのこういうところが、彼を風変わりで浮世離れした王子に見せるのだ。
まるで、彼だけ小説の登場人物ではないみたいに。
そう思ったとき、ふと弥生のことが思い出された。
小説の作者であり、この世界の創造主である彼は確か、この魔法を解く鍵は……
「……真実の愛のキス」
そう言っていたのを思い出し、ポツリと声に出してみると、やはり最後に集めるべき材料がラズベリーであることも合わせて、本当にそれが鍵なのかもしれないと思えてくる。