王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
初恋の先輩と同じ顔をした、ランバート。
呆気なく奪われて消えた、瑛莉菜のファースト・キス。
弥生は、エリナにファースト・キスをやり直せと言っているのだろうか。
でも、何のために……?
「キスを……もし私が、ヴェッカーズ伯爵にキスをすれば、ラズベリーを譲ってもらえるってことなのかな」
弥生から与えられたヒントと今の状況を考えればそれが自然な気がするし、声に出して言ってみればますます正しいように思える。
しかしキットのほうはやはり納得がいかないようで、身震いするような灰色がかった深い青色の瞳でエリナを射抜いた。
エリナはその瞳の色を見て、思わず息を飲む。
淡い月明かりを含む切れ長の瞳には、ほんの少しの苛立ちとやり場のない悲しみが浮かんでいた。
「お前、ヴェッカーズ伯爵が望めばそうできると、本気で思ってんのか?」
「え……?」
「お前を大事にしてくれない男にキスされてもいいって、本気で思ってんのかよ」
キットがなんだか今にも泣き出しそうな子どものように見えて、エリナは彼の様子に戸惑ってしまう。
「それは……だって。キスくらいなら、いくらでも……」
もうこれまでにしたキスを数えるほどの年齢でもないし、それなりに恋愛経験も積んできたつもりだ。
キットの命のために差し出すキスなら、いくらでも犠牲にしていいと思うのだ。