王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

それなのにキットは、エリナの言葉に苦しそうに顔を歪める。


「前から思ってたんだ、なんだってもっと……!」


どうして、大事にしてくれる男にだけ、自分を預けようと思わないのか。


(なんだってそういう発想がないんだよ!)


きっとそれは瑛莉菜のファースト・キスを奪って「忘れろ」と言い放った男のせいで、彼女を大事にしてこなかったその後の恋人たちのせいで、そして瑛莉菜自身のせいだ。

キットはぐしゃぐしゃと黒い髪を乱暴に乱し、口の中でぶつぶつと文句を転がすと、首を傾げたエリナの二の腕を掴んで一気に引き寄せた。


「あっ」


軽い身体は簡単にキットの胸の中に倒れてきて、細い腰を掻き抱くと、顎をすくい上げて空色の瞳に自分の姿だけを映す。

キットがそのまま軽く顎を掴んでその端正な顔を近付けてきたので、エリナはとっさにぎゅっと両目を閉じた。


(キスされる……!)


キットの吐息が確かに唇の上を撫でたと思った瞬間、甘い衝撃がエリナを襲う。


「ふぎゃっ」


しかしそれは唇にではなく、小さな鼻先にだった。

キットにかぷりと鼻を食べられたのだ。

驚いて目を開けると、拗ねたようなキットの顔がすぐそばにあって、近すぎる距離に全身が大きく脈を打つ。
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