王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
キットの紺碧の瞳は、月の光をたっぷりと含み、熱に浮かされたように今まででいちばん淡い色に見えた。
頬かカッと熱をもつのがわかるのに、あまりに魅力的な彼から目を離せない。
「俺は俺のやりたいようにしてエリナを守るよ。だけど……」
エリナの腰を抱くキットの腕に、躊躇うようにほんの少し力が込められ、もう片方の手が宙を彷徨う。
今、彼女を抱きしめたら、もう言い訳はできない。
後戻りはない。
キットはそのことを一瞬だけ逡巡し、しかし次の瞬間にはエリナをしっかりとその腕に掻き抱いた。
エリナは突然襲いくる甘く苦しい胸の締め付けになす術もなく、驚いて身を固くする。
抱きしめられている。
男の人にそうされるのははじめてではないのに、今エリナははじめて、本当の意味で男の腕に抱きしめられているのだと感じた。
「だけど、好きでもない男にこんなことされてんなら、ちゃんと抵抗してくれよ。頼むから」
(好きでもない男に……?)
キットの言葉の意味を飲み込めずに困惑するエリナを、彼は一度だけ強く抱きしめる。
「俺の気がおかしくならないように」
エリナの耳元でそう囁くと、あっさりと腕を離してパッと身を翻した。