王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
エリナの着ている薄いレースのワンピース型の寝間着はさぞ抱き心地がよさそうだし、若干目に毒だが自制してみせる。
彼女がここまで肌を露出しているのはあの舞踏会の夜のドレス以来だが、今夜は他の誰の目にも晒されていないので愉快であった。
とは言っても、ワンピースは膝丈で袖もちゃんと手首まであるし、鎖骨がのぞく程度の襟ぐりも夜会用のドレスに比べれば格段に露出は少なく、元の世界に戻ればただの普段着だ。
だから自分はエリナのこの姿を見ても許容範囲内であるが、これが常識でないこっちの男たちには決して見せられないのだと、頭の中で無理やり結論付けた。
微笑むキットを見てエリナは一瞬ホッとしたような顔をしたが、すぐに困惑して不安そうな表情になり、また手すりに突っ伏した元の姿勢に戻ってしまったので、彼女の表情を見ることはできなくなった。
「怒ってたんじゃないんですか?」
「別に怒ってない」
「……なんで、怒ってたの?」
くぐもった声で拗ねたように問われて、キットは片方の眉を持ち上げる。
「そりゃお前が、自分が大事にされるってこと、あまりに考えねーから。でも別に、怒ってたわけじゃない」
じゃあどうして、キスしなかったの?
エリナのその質問は声にならなかったので、ふたりの間にはほんの少し沈黙が漂った。