王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
近付いた気配にエリナの肩が小さく跳ねたが、ふたりの身体はどこも触れ合っていない。
キットはこうしてやりたいのだ。
彼女を自分に縛り付けたくはない。
包み込むようにして守ってやる役割を、どうか自分に与えて欲しい。
エリナの心が追いついたなら、いつかこちらを向いて、ふたりの距離をゼロにしてくれるように。
しかしエリナに惹かれていることを自覚した以上、ただ黙って待っている気もないし、逃がすつもりもない。
キットは腰を屈め、小刻みに震えて顔を上げるに上げられないエリナの、黒髪に覆われた項に囁きかけた。
「俺がお前を大事にしてやるから。だから、俺だけのものになるって約束しな」
そうしたら、うんと甘やかして、本当の恋ができないだなんて思う余裕すらなくしてみせる。
キットはエリナの背中を覆う髪に、誘惑するように指を絡めて軽く引っ張った。
エリナがその指先に誘われて、少しずつ顔を上げる。
俯き加減に振り返って見せた横顔は、頬が淡い色に染まり、長いまつ毛の下には薄い涙の膜が張っているようにも見えた。
キットが月明かりに照らされたその横顔に魅入る前に、エリナはくるりと振り向いておでこをキットの肩に押し付ける。