王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
キットが息を飲み、心臓が跳ねる音がした。
彼にとっても予想外だったのか、キットの身体もエリナと同じように緊張に固まったのがわかって、エリナはゆっくりと両手を伸ばした。
背中を遠慮がちな手が辿っていき、思わず身体を引きそうになったとき、ぎゅっとしがみ付かれてどうすることもできなくなってしまう。
距離を詰めたのは自分だが、それはエリナが自分からは何もしてこないだろうという妙な確信があったからで、不意打ちでこんなことをされれば心臓は暴れたい放題だった。
(……んな可愛いことすんなよ!)
キットは手すりに両手を付いたまま胸の中でエリナにしがみ付かれて、さながらコアラのような気分だ。
庇護欲の強い世話焼きなキットであるが、そのぶん甘えられると抑えが利かなくなるので、嬉しい反面困ってしまう。
兄のロマンス小説では、ヒーローが初夜に勢い余ってヒロインの下着を引き裂いてしまうシーンはお馴染みで、そこがイイらしいのだが、稀斗はいつも首を傾げる場面だった。
そんな怖がらせるようなことしなくても、と思うのだ。
しかし今はこの状況でなぜかそのシーンが頭に浮かび、自分もそうなってしまいそうで怖い。