王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
どうやらキットはエリナのことを真剣に考えているらしいが、ふたりは王太子と侍女なのだ。
この歳まで適当な結婚相手を連れて来てやれなかったエリナが、もしキットに本気で恋をしたのなら、当然応援してやりたい。
彼女を養子縁組でランス公爵家の令嬢にしてしまえば、国王と王妃も納得してくれるだろうし、表面上はなんとかなるだろう。
しかしエリナが本当の令嬢でないことはすぐにわかるだろうし、彼女の年齢はとうに結婚適齢期を過ぎているし、どちらにしろこの先苦労するのはエリナの方だ。
だからもし、明後日の収穫祭ごときでエリナに嫌な思いをさせ、それを取り除けない程度の男なら、キットには任せられない。
そうは思うものの、少しからかっただけで頬を染めて慌てるエリナを見れるようになったことは、嬉しくもあり寂しくもあった。
「さっそくなんだけど、エリー。朝寝坊な誰かさんを起こしてきてくれるかな? 俺もウェンディも朝食がとれない」
「え?」
目をパチリと瞬かせたエリナの身体をくるりと回し、書斎のドアへと押しやる。
困惑してされるがままのエリナの耳元で小さく笑って囁きながら、その背中をそっと押した。
「王子様はきみじゃないと目覚めないつもりらしいよ」