王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
実は、昨夜キットがなかなか部屋に戻れなかったのはエリナのせいなのだ。
元はと言えば話を切り出したのはエリナだし、抱き付いたのもエリナの方だ。
キットが片腕でそっと包み込んでくれたのをいいことに、その絶妙な安心感に浸りきっていた。
彼の胸に顔をうずめて、あたたかな体温を感じて、刻まれる鼓動にずっと耳を澄ましていた。
冬の朝になかなか布団から出られないように、キットの腕の中から抜け出すことができなかった。
だけど彼は終始エリナに片方の腕を回したまま、髪をなでたりときどき頭のてっぺんに唇を寄せたりしながらも、それ以上のことは何もしてこなくて、最後にはしがみついた腕をそっと放して「おやすみ」と言い、小瓶を回収し帰って行ったのだ。
キスはおろか、ぎゅっと両腕で抱きしめられることもなかった。
しかしそれは、エリナにとって新しい発見だったのだ。
キスをしなくても、ベッドの上で素肌を触れ合わせなくても、ただ寄り添うだけでこんなにも満たされる人がいる。
いつか包み込まれるようなこの気持ちを、キットにも返してあげられるようになるのだろうか。
『俺がお前を大事にしてやるから。だから、俺だけのものになるって約束しな』
彼がくれた思い出すだけで頬が熱くなる言葉は、その口調とは裏腹に、思いやりと慈しみに溢れた懇願するような声音だった。