王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「失礼します。殿下、そろそろお目覚めの時間です」
部屋の入り口の壁を軽くノックして遠慮がちに声を掛けたのだが、ベッドの上の饅頭からは返事がない。
窓からは朝の柔らかな光が差し込み、エリナを部屋の中へ誘うようだ。
「王子殿下」
少し強めに呼びかけると、シーツがもぞもぞと動き、中身が身動きしたのがわかった。
(やっと起きた)
ホッとして緊張を解いたエリナは、目覚めたキットが微睡みの中でまた眠りについてしまわぬよう、声のトーンを落とさず言う。
「おふたりが朝食の席で殿下をお待ちです。別の者を呼んで参りますから、お支度をなさってください」
普通の王太子なら自分の従者を伴ってくるものだが、この風変わりな王子はひとりでお忍びに来たから、身の回りの世話をする者がいない。
ベテランの執事にお願いするのが良いだろうと検討を付け、エリナが踵を返そうとしたとき、ベッドの方でシーツが擦れる音がした。
「ぐーぐーぐー」
キットが身を起こすのかと思ったが、聞こえてきたのはあからさまにおちょくるようなウソのいびきではないか。