王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「殿下! 人を呼んで来ますから、ちゃんと起きてくださいよ」

「ぐかーぐかーぐかー」


何だと言うのか。

どうせ起きているのだから遠慮することもないと、部屋の隅までしっかり届くような声で言ってみても、狸寝入りとすら言えないいびきで煽ってくる。


(絶対起きてるくせにーっ! 顔は見たくないってこと!?)


ついさっきエリナも同じようなことを思ったのだから、キットもそうなのかもしれない。

しかし自分は気恥ずかしさを押してここまで来たのだ。

こんなふうにされたら、何が何でも顔を拝んでからでないと気が済まない。


エリナはずかずかと部屋に踏み入り、ベッドの側まで来て、白いシーツに包まって饅頭のようになっているキットの頭上で声を張り上げた。


「キット! ふざけてないでちゃんと起きてよ!」


すると、わざとらしいいびきがピタリと止んで、キットがシーツの下からひょっこりと顔を出した。


「おはよう、エリナ」


その表情は思いのほかはっきりしていて、とても寝起きには思えない。

灰色がかった青紫色の瞳は、いたずらっぽい光を含んでしっかりと開かれている。


きっと、最初から起きていたに違いない。
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