王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

混乱したままそれだけ言ってウィルフレッドがまた部屋を出て行こうとするので、エリナは慌てて腕を掴んで引き留めた。


伯爵令嬢としてしっかりとした教育を受けたウェンディは、出会ってからの短い時間でも礼儀正しい素敵な女の子だとわかっている。

彼女が屋敷の主であるウィルフレッドに何も告げずにいなくなるなんて非常事態なのはわかるが、それにしても今のウィルフレッドは冷静じゃない。


「まっ、待ってください! ちょっと落ち着いて……彼女の部屋に、置き手紙とかあるかもしれないし」


アメリアと気の毒な仕立て屋はその緊張感の中、身動きすることもできず黙って見守っていたが、キットだけは飄々とした顔で口を開いた。


「手紙はないと思う。ウィルにはちみつを託したことは決して後悔しないけど今は顔を合わせられないと、俺に言付けて行ったから」

「なんだって?」


部屋中の視線が彼に突き刺さる。

ウィルフレッドはキットの言葉に反応して勢い良く振り返り、彼に詰め寄った。

わけがわからない。

キットは、ウェンディが屋敷を出たところを見たと言うのだろうか。


「彼女に何があった?」


懇願するように尋ねるウィルフレッドに、キットはしばらく間を置いて、スッと表情をなくした。
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