王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

顔立ちが整っているだけに、彼が纏うどこか甘い雰囲気が取り除かれると、近寄り難く感じるほど冷たくなる。


「俺は全部話しただけで、帰ったのは彼女の意志だ」

「全部話した?」


表情の読み取れないキットが何を言いたいのかわからなくて、ウィルフレッドは焦れたように先を促す。


「神託のことがあって、俺のためにウィルと彼女の婚約話が浮上して、ウィルはそれを承知して彼女に近付いた。仮面舞踏会で知り合った男の正体がウィルだったのは、偶然じゃなかったって」


エリナは息を飲んで両手で口元を覆い、まったく話がわからないアメリアと仕立て屋はただ黙って気配を消している。

侍女であるアメリアや貴族の家に出入りする仕立て屋などは、ちょっとした秘密に思わず触れてしまうことはよくあるので、深く立ち入らないようにするのは慣れていた。


しかし今回の件は"ちょっとした秘密"の範疇には収まらないことだと思うので、エリナは二重に驚いてしまった。


ウィルフレッドの喉が怒りでヒュッと音を立て、キットの襟元に掴みかかる。


「なんでそんな余計なことを……! ムダに彼女を傷付けるな!」


普段は温厚で親しみやすいとしか言いようがないウィルフレッドが、声を荒げて怒りをあらわにするところを、はじめて見たかもしれない。
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