王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
強く握りしめられた拳がブルブルと震え、ギラつくゴールドの目を細めてキットを睨み付けている。
しかしキットはまったく意に介さない様子で、ウィルフレッドにされるがままになっていた。
そして従兄弟を諭すように、形のいい唇をゆっくりと開く。
「あのな、ああいうのは"余計なこと"とも"ムダ"とも言わねーの。隠して何になんだよ。そういうことは洗いざらい吐けるようになってから言え」
キットに静かな芯のある口調でそう言われ、ウィルフレッドは怯んだように手を離した。
「心配しなくても、御者も護衛も暇そうなやつから俺が見繕っておいた。この国は平和そのもので、コールリッジ伯爵領までは国中でも治安のいい街道が通ってる。この国でいちばんイザコザ起こしそうなのはお前ら御三家だよ」
ウィルフレッドに掴まれた襟元を直しながら、キットは何てことないようにあっさりと言い、寄る辺のない子どものように立ち尽くすウィルフレッドに目を留める。
細められた切れ長の瞳に、ウィルフレッドと対峙してからはじめて、優しさが宿ったのがエリナにはわかった。
迷子になったウィルフレッドにそっと道を示すように、まっすぐに彼を見据え、幼い頃からたくさんの時間を共にしてきたふたりの視線がしっかりと交わる。