王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「いい娘じゃねえか、あの子は。お前があそこまで必死になれるなんて、貴重だろ」


さっきまでの緊迫した空気など物ともせず、キットがニヤニヤと精悍な顔付きをダラしなく緩めてウィルフレッドをからかう。

まるで好きな女の子ができた友だちを冷やかす男子高校生を見ているようだと、エリナは思った。


「だけど、俺はもう……」


ウェンディに何と言ったらいいのかわからない。

偶然を装って彼女に近付いたのは事実だし、実際話には出さなかったものの、当初は彼女と婚約を結ぶことで懐に入り込み、はちみつを譲ってもらおうと考えていたのだ。

ウィルフレッドは彼女に会ってみて、その人柄に触れて、なるべく傷付けたくないと思ったから婚約を避けて事を進められるよう尽くしたわけだが、事実を知ったウェンディがそれをどう受け取ったかはわからない。


弁解の余地はないし、聡明でまっすぐなウェンディ相手に小細工は通用しない。


ウィルフレッドと出会ったあの夜を信じ、だからこそ仮面を付けていようがいまいが、彼という人をまっすぐに見つめてくれたウェンディに、言い訳はしたくなかった。


ウィルフレッドがあまりに思いつめて沈んだ顔をするので、キットは呆れてその肩を軽く小突いた。
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