王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「いいか、お前みたいなやつは頭でごちゃごちゃ考えるな。ただ彼女の前に立って、その情けねえツラ見せりゃあいいんだよ」
"情けないツラ"と言われて、ウィルフレッドは思わず口元を引き締める。
これまでごく若いうちから社交界に生き、決して敵は少なくない中で、相手と自分の立場を瞬時に判断し、常にさり気なく優位に立つことで上手く渡ってきたのだ。
策もないままに相手に弱味をさらけ出すなど、想像しただけで緊張するではないか。
珍しく自信のなさそうなウィルフレッドの前に、キットの方は気楽なもので、突然思い出したようにくすくすと笑い出す。
「だけど、コールリッジ伯爵からあの娘を嫁にもらうのは、はちみつを譲ってもらうより難しいかもしれないな」
これだけ盛大にかき回しておいて他人事だと思って楽しんでばかりのキットに、ウィルフレッドもようやく顔をしかめてみせた。
ウェンディの話から、彼女が父親から相当大切に育てられているのはわかっていたから、何とも言い返せないのが癪だが。
しかもブルーローズをもつランス公爵家の男で、人タラシで有名なウィルフレッドが相手である。
はちみつを譲ってくれたときのように、ウェンディが望まなければ絶対に首を縦には振らないだろうし、例え愛娘の懇願があろうと、とりあえず卒倒くらいはするだろう。