王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
コールリッジ伯爵がひとり娘を溺愛しているのは知っていたが、何しろ夜会で顔を合わせることもなかったし、ここまでとは思わなかったのだ。
ますます、婚約話は回避しておいてよかったと思うウィルフレッドである。
「でも……彼女は俺とまた会ってくれるかな」
そう思い立って、ウィルフレッドはまたもや落ち込んだ。
顔を合わせるのも嫌で、文句のひとつも言わずに飛び出して行ったくらいなのだ。
社交界には顔を出さない彼女だし、今回信用していたウィルフレッドに盛大に裏切られていたとわかり、尚更顔を合わせることなど二度とないのではないかと思う。
「ばーか。彼女は"今は顔を合わせられない"って言ったんだよ。収穫祭の夜、きっとまた会おうと約束しておいた」
キットが肝心なことをポロッと言うので、ウィルフレッドは勢い良く顔を上げて目を瞬いた。
それなら彼女は、会って友好的に話をするとまではいかなくとも、2日後にはまたウィルフレッドの姿を見ることになってもいいと思っているのだろうか。
怒りにギラつき金色に光り、失ったものの大きさに打ちひしがれて沈んだ瞳が、ようやく柔らかい琥珀色に戻ってきた。
「大事にしろよ、逃がすなよ」
結局、キットが言いたかったのはこれなのだ。
なんやかんやと世話焼きな従兄弟に、ウィルフレッドは小さく頷き返した。