王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「あのね、嬉しくて……思い出してまた感動しちゃったの。ウィルフレッドさまのこと、あんなふうに考えてくれてありがとう」
目の端に浮かんだ涙を拭って、泣き笑いの表情のエリナが大きな瞳にキットを映してそう言うと、キットはたじろいで視線を逸らす。
本来、弥生やエリナのようなどこか奔放で無防備で世話のかかる相手を、あれこれと手を尽くして甘やかして守ってやらないと気が済まない性質なのだ。
その上こんなふうにされては、ぎゅうぎゅうに抱きつぶして思う存分可愛がっても、どうにも収まりがつかないほどだった。
「んなことで泣くなよ、頼むから」
だからキットの言葉は照れ隠し半分、本気で困っている部分も半分で、切実な懇願であったが、上機嫌なエリナはそんなことは意にも介さない。
キットがウィルフレッドとウェンディのことを想ってああしてくれたことが、なぜか自分のことのように嬉しいのだ。
(やっぱりこの人は、すっごく優しい人なんだ!)
エリナはそっぽを向くキットの胸にもう一度顔をうずめ、それから昨夜よりもずっと躊躇いなく、彼の背中に腕を回してぎゅっと抱き付いた。
キットの身体がピシッと固まり、鼓動が大きく聞こえたが、今のエリナには彼から伝わってくる全てが大切で、ひとつだって逃したくない。