王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
緊張しているのかもしれない。
ランバートの容姿が、弥生の部屋で見た写真に写る瑛莉菜の初恋の男と一致しているのは、キットにもすぐにわかったくらいだ。
あの男のところに出向いて行かなければならないのだから、当然不安にもなるだろうと、キットは思った。
「俺が側にいるんだから、ムリすんなよ」
今のエリナは、少しずつ変わってきているような気がする。
だからできることなら、危険で気に食わない上に嫌なことを思い出させるランバートには近付けたくないのだが。
キットが複雑な想いを込めて心配そうに見やるのを、エリナは笑って受け止めた。
「大丈夫です。8日目の陽が昇るまでには、せめてキットのぶんだけでも、必ず完成させるから」
その後のことは、国王の使者たちにラズベリーを渡して、3つの材料をすべて揃えてから、ゆっくり考えればいいのだ。
収穫祭を間近にしてエリナがどれほどキットと離れ難く思っていたとしても、とにかく彼の命を救わなければならないことだけは確かなことだった。
悩むのは、そのあとで十分。
決意に満ちたエリナの微笑みはどこか痛々しく悲しそうに見えて、昨夜とはまた違った意味で、強く抱きしめたくなるキットだった。