王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
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ふたりの馬車がランバートの邸に到着したのは、ちょうど夕食時だった。
ランス公爵邸やコールリッジ伯爵邸と比べても荘厳で厳つい雰囲気のある邸で、馬車の中から見ていた街並み同様に、かなり旧い時代から大切に守られてきたことを伺わせる。
出迎えには使用人たちがズラリと並び、ランバート本人の姿も見える。
その隣には、ウェンディより少し歳上くらいの赤毛の女性が立っていた。
ランバートの姿が目に入ると、無意識に身体が硬くなってしまう。
実際いつどこまでを要求してくるのかはわからないが、この2日間は彼に逆らえばラズベリーが遠のくばかりなのだ。
エリナが固まっている間に馬車が止まり、控えていた者がドアを開けると、キットが先に降りて行った。
「エリナ、おいで」
従者が手を貸そうとするのを断って、馬車の中で縮こまっているエリナに手を差し出す。
ランバートに向けられていた視線が遮られ、そこに深い青色の瞳が映り込むと、彼に抱きしめられたときのように肩から力が抜ける。
そんなふうに彼の腕の感覚を覚えてしまっているのがなんとなく恥ずかしくて、エリナは朝から蒼白だった頬をぽっと朱に染めた。