王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「? なんだよ」
「べっ、別に!」
怪訝そうな顔で首を傾げたキットをごまかすように、エリナはその手に自分の手を重ね、ぎゅっと強く握った。
ふたりが馬車を降りて離れると、ランバートと赤毛の女性がすぐ目の前までやってくる。
キットはその間もエリナの腰にさりげなく腕をまわし、しっかりと寄り添ってくれていた。
ランバートがそんな様子に目を細め、薄く笑ったような気がした。
「この度は私の邸へようこそ。収穫祭の前夜で慌ただしくしておりますが、心より歓迎いたします」
キットはランバートが恭しく礼をするのを、王太子らしく胸を張って見下ろしている。
寄り添って立つふたりの様子がおかしいのか、ランバートはなんだか楽しそうな顔でふたりを眺め、それからエリナに声をかけた。
「きみならきっと招待を受けてくれると思っていたよ。まあ、ここまで殿下と仲良しになられているのは予想外だったがね。今夜もとても綺麗だ」
「ありがとうございます」
今日のエリナは外出用のドレスを着ていて、それももちろんキットのチェック済みだ。
クリーム色のドレスは首元までしっかりとボタンがあり、腰まわりなどはゆったりと膨らんだデザインなので、これなら身体のラインもわかりにくいとのことだった。
まあそれも触られなければの話だ、とエリナは思ったが、キットがあまりに真剣に選ぶので黙っていた。