王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
・妹
「くくく、殿下はまるで番犬だな。今にも噛み付いてきそうだった」
ランバートはそう言って愉快そうに笑いながら、ベンチの背もたれに身体を預ける。
エリナとランバートはラズベリー畑を離れ、庭園の中央にある広場に出ていた。
広場の真ん中には噴水がおかれ、それを眺める形でいくつかベンチが設置されている。
キットはもちろんふたりきりになるのを許そうとはしなかったが、エリナが無理やり止めたのだ。
彼の命を救う手段がこれ以外には絶望的になってきた以上、キットも渋々引き下がるしかなかったのだと思う。
「殿下を"番犬"だなんて、誰かに聞かれたら不敬罪で罰せられますよ」
「独占欲の強い男をからかうのは楽しいことだが、相手が王子ともなればなおさらだ」
隣に座ったランバートはエリナの嫌味も意に介さず、クスクスと喉を鳴らして笑っている。
(随分とお楽しみのご様子だこと)
ランバートがあまりにキットのことをからかうので、エリナがツンとして顔を背けると、笑いを収めてひとつ息をついた。
エリナの黒髪を指に絡め、軽く引いて視線を奪う。
「お前のほうも、あの舞踏会の夜から少し変わったようだ」