王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「え?」
鼻の頭にシワを寄せて拗ねた表情をしていたエリナだったが、ランバートが突然真剣な顔を向けてきたので、思わずまっすぐに見つめ返した。
髪を軽く引かれるぶん、目鼻立ちのはっきりとしたランバートの顔が近くなる。
ランバートの指が、髪を毛先までゆっくりすいていく。
「あの日のお前はもっと楽しめそうな女だった。安く買える物分りの良い女かと思ったが……今は随分とあの男に懐いていると見える」
目の前で褐色の瞳が鋭さを増し、エリナは何も言えずに息を飲んだ。
ランバートが軽薄さを装うのをやめると、貴族としての凄みを増し、圧倒されるようで、何を考えているのかわからなくなる。
「……まあ、それはそれであの王子の反応を楽しめてまた一興だな」
困惑するエリナをジッと見つめてから、ランバートはあっさり手を離してふたりの間の距離を元に戻した。
ランバートの指が髪から離れても、エリナは固まったまま動けない。
"安く買える物分りの良い女"。
自分からそんなふうに振舞っていたつもりは全然なかったのに、なぜかその言葉に怒りが湧くどころか、現実を突き付けられたような気分になる。
キットと出会って彼に抱きしめられる感覚を覚えるまで、自分はそんなふうに見えていたのだろうか。