王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
一方視線の先のエリナはと言えば、はじめこそ緊張する様子を見せていたものの、野良猫が少しずつ近付いてきて警戒を解くように、今じゃすっかり打ち解けているみたいだ。
声が聞こえないから何を話しているのかまではわからないが、まったく人の気も知らないで、とキットは思う。
そうやって茂みからふたりを監視していたとき、ふと背後に人の気配を感じた。
振り返ると同時に、気配の主がスカートの裾を丸め込んで隣にしゃがむ。
「殿下は彼女にご執心なのですか?」
キットと同じように、視線をベンチのふたりに定めながら小さく問う。
アリスだ。
キットの姿も王太子として褒められたものではないが、スカートの裾を持ち上げて茂みにしゃがみ込む姿は、良家のご令嬢とは思えない。
「そう見えますか?」
そう見えることは十分自覚しているし否定するつもりもないが、彼女に答えてやるべきことでもないだろう。
キットが適当に受け流すと、アリスのほうも特に答えを期待していたわけでもないようで、ただ静かに前を向いている。
話すことも特にないが追い返すほどでもないと判断し、キットはランバートを、アリスはエリナを、茂みの奥からジッと観察するように見ていた。
少し滑稽だが、なり振りかまっていられない。