王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「それならどうして彼女は、ランバートに近付いたりするの」
アリスが小さくぽつりと呟いたので、キットは内心、まったくだと激しく頷いた。
エリナがキットのためにと思ってがんばってくれているのも、それしか方法が思いつかないこともわかっている。
わかってはいるものの、やはりおもしろくはない。
一刻もはやくいい方法を考え出して、エリナにそんなことしなくていいと言ってやりたいのだが、盗むにしても懐柔するにしても、時間が足りないのだ。
ラズベリーを入れてから禁断の青い果実の完成までに13時間かかるというのが厄介で、日の出の13時間前にラズベリーを手に入れなくてはならないのに、その後13時間それを取り上げられることも咎められることもなく、完成を待たなくてはいけない。
「私、嫌いです。ラズベリーや爵位を目当てに義兄に近付こうとする女性も、それを彼に押し付けた王家も」
キットが黙って聞いているだけなので、アリスは独り言を言うようにそう続けた。
ランバートは300年も昔の因縁から王家を軽視して退廃的にふるまっているが、アリスはラズベリーや爵位だなんて面倒なものだけを押し付けた王家がランバートとは別の意味で嫌いだったので、王太子の隣で愚痴を零すことも憚らない。