王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
アリスにとってランバートは、兄であり父であり、そして初恋の相手でもあった。
アリスはもともとヴェッカーズ家の使用人が産んだ子どもであったが、母親が屋敷の外でつくってきた子どもで、それも望まれない妊娠だった。
母がこっそりアリスを産み落とした後、ほとんど放置状態で育ち、衰弱しているところをランバートの両親であるヴェッカーズ夫妻に見つかったのだ。
母親は使用人を解雇され実家に戻されたが、アリスは今後も十分な治療を受けてしっかり育っていけるようにと、ヴェッカーズ夫妻が養子として引き取ってくれることとなった。
しかしそのことが決まってからほんの数日で夫妻は馬車の事故が原因で亡くなり、ランバートは突然ヴェッカーズ家当主となり、両親を亡くして戸惑う青年の元には幼い義妹であるアリスだけが残された。
養子にしてもらえたのは夫妻の多大な慈悲のおかげであって、ランバートにアリスを背負う義務は露ほどもない。
捨てられて当然と思っていたアリスに、きちんと治療を受けさせ、育て上げ、唯一の家族になってくれたのがランバートなのだ。
アリスは成長するに従って、ランバートを父として、兄として、そしてひとりの男性として慕ってきた。
たとえ彼が社交界においてどんなに軽薄で享楽的な男を演じようとも、ランバートの本当の優しさを、自分だけは知っている。