王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
キットは藁にもすがる思いだった。
キットが単独でラズベリーを盗めば、ランバートは王太子を盗人として世に触れ回るだろう。
ランバートの私兵はキットを追ってくるだろしう、ランバートの領地から、国中で最も訓練されている彼らをかわして、王都まで囚われることなく逃げるのは難しい。
たとえ13時間逃げおおせた後に命を繋ぎとめたとしても、ランバートに王家を攻撃する口実を与えてしまう。
国王が神託のことを公表したとしても、反感をもつ国民もいるだろうし、王家の信頼には大きく傷が付く。
だから盗むという案にエリナは賛成しなかったし、キットも捨て身の最終手段だと思っていた。
だけどもしそれが、大切にしている義妹の手引きだとわかれば……?
ランバートがアリスを特別かわいがっているのは、その眼差しや態度でわかる。
事情を聞く耳を持つだろうし、うまくいけば不問もありえる。
事件を公表すればアリスにも何らかの影響が及ぶだろうし、それを防ぐために国民には黙っておいてくれると言うなら、それほど好都合なことはない。
ここへきて突破口が見出せたようで、アリスの肩に置いた手についグッと力が入った。
「その話、もう少し詳しくしよう」