王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
・ままならないのは恋心
エリナは与えられた客間のバルコニーから、夜の帳が下りた中庭を見下ろして、それから頭上に昇る銀色の月を見上げた。
手すりに置いた小瓶の蓋を、指先でコツンと叩く。
好奇心に駆られてほんの少しだけ蓋を開けてみると、甘く香しい匂いが漂ってきた。
この2日でブルーローズとはちみつの境界線がなんだか曖昧になり、花びらの端が溶けてきているみたいだ。
エリナはバルコニーの手すりに両肘を付き、銀色の光をたっぷり吸収する小瓶を腕の間に置いた。
少し開いた隙間から、不思議に甘い匂いが上ってくる。
今夜は、さすがのキットもここにはやって来ないだろう。
屋敷のつくりもわからないし、お互いの部屋もわからない。
王太子が未婚女性の部屋に夜な夜な忍び込むなど、誰かに知られたら大変だ。
そうとわかっているのに、キットのいない3日目の夜はいやに寂しかった。
まだ出会ってから数日だというのに、日に日に存在が大きくなって、もう離れることは考えたくない。
ランバートはエリナが従えばいちばん最初に収穫されたラズベリーをすぐにくれると約束してくれたし、初めほどの苦手意識もなくなったし、きっと明日はなんとかやり遂げられるだろう。