王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
だとしたら、エリナはどうしたらいいのだろう。
エリナが完成させた禁断の青い果実は、もちろん、何よりも優先してキットに食べさせるつもりだ。
そしてその後エリナかキットか、もしくは国王の使者たちがランバートとの交渉に成功したとして、自分は禁断の青い果実をもう一度食べることができるだろうか。
(元の世界には戻りたい。だけど……彼と離れたくない)
エリナは自分の本音にジッと耳を傾け、静かに目を閉じた。
この世界を抜け出せば、キットとは二度と会えなくなることはわかっている。
エリナは瑛莉菜として、またやよいはるの担当編集に戻るだろうし、キットは神託によって選ばれた統治者として、国民の信頼を勝ち得、立派な王になる。
いつかは良家の令嬢か他国のお姫さまを娶り、幸せな家庭を築く。
小説の中での話だとわかっているのに、息が苦しくてたまらなくなる。
手を伸ばせば触れられる、力強くて優しくてあたたかいあの人を、どうして虚構の人物だと割り切れるだろうか。
(どうして、ここで出会ってしまったんだろう)
こんなふうに焦がれる相手と、現実の世界で出会えたのなら、きっとそれだけで幸せに違いないのに、とエリナは思った。