王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
エリナは嬉しいのか悲しいのか、よくわからない気分だった。
自分が、泣けるほど誰かを好きになれるとは思っていなかった。
だけどエリナがどんな選択をしようとも、その好きな相手との間に幸せな未来は永遠にやってこない。
(どうして、好きになったのがキットだったんだろう)
恋がこんなにもままならないものだなんて、今まで知らなかった。
ポロポロとエリナの頬を伝う涙が、何かの引力に引き寄せられているかのように、次々と小瓶の中へ滑り落ちていく。
エリナは白い両手で顔を覆い、それから涙を拭ってまっすぐに前を見た。
明日、すべてを決めるラズベリーが、今はまだ白いその体に月の光を浴びて輝いている。
『甘く香しいはちみつにブルーローズの花びらを一枚浸し、銀色の月夜を三晩眺め、恋する乙女は涙を流した。溶け出し空色に輝くそれにラズベリーを加え、13時間の後、禁断の青い果実は完成されたり』
歴史書の一節を、心の中で小さく唱える。
(だけど、好きになっちゃったんだから、仕方ない)
いずれにせよ、明日エリナがやるべきことだけは決まっているのだ。
元の世界には戻れるかどうかより、キットの命を救えるかどうか。
今のエリナにとってはそれが何より重要で、誰に何と言われようとも、それだけはやり遂げるつもりだった。