王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
黙っていればゾッとするほど整った綺麗な顔をしているくせに、そんなふうに屈託のない表情を見せられると、怒りたかったのについつられて苦笑してしまう。
(私がずっとこの人の側にいられるかどうかはわからないけど、キットには生きていてほしい理由がある)
エリナは腰に添えられたキットの腕からスルリと抜け出し、その手が再び自分を捕まえる前に彼の手をぎゅっと握った。
ウィルフレッドのプロポーズ騒動を経て、収穫祭はいよいよ熱を高める。
時刻はもうすぐ18時。
収穫の時になると、参加者全員による大円舞曲が予定されているから、それまでにランバートと落ち合う約束だ。
「私、伯爵を探さないと」
エリナがそう切り出すと、見つめる青紫色の切れ長の瞳が険しくなり、手をぎゅっと握り返された。
「行くなよ。うまくいけば、アリスがきっと……」
「うまくいけば、でしょ。彼女は確約してくれたわけじゃないんだし、盗むことには変わりない。私がやった方が安心でしょ」
キットが昨夜、アリスにラズベリーの奪取の手引きを提案したという話は昼間のうちに聞いていたが、アリスは協力を決めかねていて、あまりいい返事はもらえなかったと言う。