王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
それならエリナとしては、ランバートとの約束を反故にするわけにはいかない。
ランバートが最初の印象ほど悪い人物ではないとわかったのだから、あまりに酷いことや痛いことはされないだろう。
彼の言う通り、ただ一夜を楽しむだけ。
心配いらないという意味を込めて明るく笑ってみせたのに、キットは険しい表情を崩さず、彼のすべてがエリナを行かせたくないと訴えてくる。
エリナはわざと明るく取り繕うのをやめて、自分の手を必死に握るキットの大きな手のひらに視線を落とすと、その手を指先でそっとなでた。
「キットが私を心配してくれてるのはわかってる。だけど今はもう、キットが心配してたような、投げやりな気持ちで言ってるわけじゃないの」
ランバートのもとへ行くことを、なんとも思っていなかった自分とは違う。
違うからこそ、行かなくちゃいけない理由がある。
ゆっくりと視線を上げると、エリナの言葉の真意を図り兼ねて怪訝な顔をするキットと目が合った。
(この人が私に、教えてくれたこと)
エリナは握った手を思いっきり引き寄せ、つられて屈んだキットの耳元に唇を寄せると、小さな声で早口に囁いた。