王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「私にもあなたのこと、大事にさせて。愛してるから」
その瞬間、フッと力の抜けた手のひらから自分の手を引き抜き、くるりと背を向けて一気に走り出した。
誰かをこんなに好きになったのも、その想いを告げたのも初めてで、顔から火を吹きそうなくらい肌が熱い。
だけど言葉にして伝えられたことに胸がドキドキして、小さな達成感に頬が緩む。
エリナはしばらく興奮に任せて足を進め、人の波を縫って熱を冷ましながら、ランバートの姿を探した。
一方、キットは間抜けな顔で数秒惚けたあと、狂ったように脈を打ち始めた心臓を押さえて、セットされた黒髪に指を差し入れてぐしゃぐしゃに乱した。
(くそっ……言い逃げかよ!)
あんなお願いをされて悪い気はしない。
というか、むしろ可愛くて仕方がない。
キットだって、ただその性根から彼女を心配していただけの頃とは違うのだ。
特別な感情があるから、ここまで手放したくないと思っている。
エリナから想いを告げられれば、もう他の男には髪の毛一筋だって触らせたくないほど独占欲が高まって、逆にランバートのもとへなど行かせたくない気持ちが強まった。
「だあーっ、くそ!」
しかしエリナを追いかけたい衝動をなんとか抑え込んで、彼女が逃げたのとは反対の方向へ足を向ける。
アリスを探さなければならない。
ランバートがエリナを完全にいいようにする前に、絶対にアリスを説得してみせると心に誓って。