王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
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目を覚ましたとき、涙で濡れていた頬は乾いて冷たくなっていた。
「宇野ちゃん? 気が付いた?」
しばらくご無沙汰だった現代的な明るさに目を細め、瞬きをすると、視線の先に担当作家の姿が映る。
弥生はちゃんと、人の姿をしている。
どうやらここは弥生の部屋で、瑛莉菜はリビングにあるソファに横たわっているらしい。
「よかったあ、宇野ちゃんも目が覚めたんだね」
弥生がホッと胸を撫で下ろし、ソファの横にへなへなと座り込む。
なんだか随分と長い夢を見ていたような気がする。
それも、やけにリアルでドタバタと忙しい夢だった。
腕を持ち上げて、手の甲を額にあてる。
その手のひらに白い包帯が巻かれているのを見た瞬間、瑛莉菜は慌てて飛び起きた。
「あ、私……」
「もう大丈夫だよ。ちゃんと小説の中から、戻って来られたんだ」
いつになく優しい顔をした弥生が、呆然として自分の両手を見つめる瑛莉菜をそっと覗き込んでくる。
その表情になぜかキットの面影を見つけて、途端に胸の奥がキツく締め付けられた。