王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「私、戻って来ちゃったの……?」
あんなに元の世界へ戻りたいと思っていたのに、呟いた自分の声はあまりに弱々しくて頼りなく、耳にした瞬間泣いてしまった。
濃い茶色のアーモンド型の瞳から、次々と涙が溢れてくる。
「どうしよう、私……あれを食べなきゃキットは死んじゃうのに! どうしてキットは……」
「うっ!? う、宇野ちゃん、頼むから泣かないで」
弥生がオロオロと慌てて宥めるが、瑛莉菜はついに両手で顔を覆い、ソファに座り込んで本格的に泣き出した。
キットはどうなったんだろう。
まさか死んでしまったのだろうか。
夜中怖くなるほどキレイな顔で眠っていて、はやく目を覚まして欲しいとひたすら祈った。
間に合ったと思ったのに、キットはどうしてあんなキスをしたのだろう。
もう一度。
一度だけでいいから、彼の声を聞けたなら。
「おい、なに泣かしてんだよ」
あまりに強く願ったから、幻聴かと思った。
だってあの変な実を食べたせいで小説の世界に放り込まれたのだから、今更それくらい不思議ではない。