王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「き、稀斗……?」
「ん、そう。これからはそれでよろしく、瑛莉菜」
二カッと笑った屈託のない表情に、瑛莉菜は確信した。
これはキットだ。
いや、正確にはキットは稀斗だったのだ。
話でしか聞いたことがない弥生の弟に小説の中で出会い、しかも恋に落ちていたなんて!
「なっ、何で言ってくれなかったの!? 私、キットのこと好きになっちゃったって、でも小説の登場人物だからって、すごく悩んだのに!」
瑛莉菜がそう叫んでつい稀斗の手を振り払うと、彼は慌てて立ち上がり、瑛莉菜の隣に腰を下ろした。
彼女の身体を自分の方に向かせ、罰の悪そうな顔で言い訳をする。
「悪かったよ、でもそうするしかなかったんだ。王子と侍女に、必要以上の面識があっちゃおかしいだろ」
「そうかもしれないけど……!」
確かに、小説の設定ではふたりは初対面だったし、その設定以上の繋がりがあっては物語がおかしな方向に進みかねない。
それでもあんなにキットを想って涙した自分がバカらしく思えて、瑛莉菜はぷいっとそっぽを向いた。