王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「瑛莉菜、頼むから、怒るなよ」
稀斗は情けない声で許しを乞い、目を合わせようとしてくるが、瑛莉菜は身をよじって逃げる。
「私に何も言ってくれなかった」
「ごめんって」
「私に勝手にキスした」
「それは……! 悪かった」
瑛莉菜はふくれっ面のまま、シュンとする稀斗を横目に見た。
もう二度と、会えない人かと思った。
これは叶わない恋で、叶えてはいけない恋で、小説の中の王子様相手には、どうすることもできないのだと。
本当は触れることも許されない人なのに、苦しくなるほど恋い焦がれて、そんな彼が命を落としてしまったのかと思った。
瑛莉菜は振り向いて稀斗の首の後ろに腕をまわし、困った顔をする彼を引き寄せた。
吸い込まれるような漆黒の瞳は、深い青紫色のキットの瞳より、ずっとあたたかくて魅力的だ。
「あんな思いさせたら、もう二度と許さないんだから。稀斗のバカ」
唇の上で囁いて、その存在を確かめるようにキスをする。
稀斗は少し驚いた顔をして、それからふっと嬉しそうに笑い、瑛莉菜の身体をぎゅーっと強く抱きしめた。
「ほらね! 魔法を解く鍵は、真実の愛のキスだって言ったでしょ」
7日間ふたりを見守り続けた弥生は、満足そうにそう呟いた。