王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「だってもう疲れたんだよう。乙女の恋心なんてもうわからないんだよう」
「大丈夫ですよ。前回だってそう言って、ちゃんと書けたじゃないですか」
泣き言を並べる弥生をなんとかやる気にさせようと、瑛莉菜は懸命に励ます。
やよいはるが人気絶頂の今、なんとしても次回作の原稿をもぎ取らなければ。
「じゃあ宇野ちゃん、参考に教えてよ。あそこにいる稀斗くんにどんな乙女心を抱いてるわけ?」
「だっ、ダメですよ! そんなの絶対言いません!」
瑛莉菜はそんな弥生のお願いを即座に拒否したが、稀斗がソファの上で身じろぎし、こっそり期待の眼差しを向けてきた。
熱くなる頬を意識しないようにして、黒い瞳を子どもみたいにキラキラさせる稀斗に向かってムッとした顔をしてみせる。
ふたりのやり取りをおもしろそうに眺めていた弥生は、突然いたずらを思い付いたみたいに、ポンっと手を鳴らした。
「じゃあ宇野ちゃん! もう一回行ってみない、小説の中」
「ふざけんな、ダメに決まってんだろ」
瑛莉菜もそんなのは二度と御免だが、彼女が拒否するよりはやく、稀斗が起き上がって弥生を非難する。