王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
稀斗はくすくすと喉の奥で笑いながら、瑛莉菜に巻き付けていた腕を解いて身体を離す。
瑛莉菜が本にしおりを挟み、ソファの上に置いて腕を差し出すと、稀斗はその手に自分のビジネスバッグと紺色の紙袋を渡した。
その紙袋は瑛莉菜の勤める出版社・栄樹社本社ビルの近くにある書店のもので、瑛莉菜もよく通っている。
『どこかオススメの本屋はないか』と言う稀斗に、瑛莉菜が教えたのだ。
大型とは言えない書店だけど、あたたかくて雰囲気もよく、店員さんの対応もいいから、稀斗が兄の小説を買っても変な目で見られたりしない。
稀斗に渡された紙袋の中には、本日発売になった『公爵さまのプロポーズ!』が6冊も入っていた。
まさか、置いてある本を買い占めてきたのではあるまい。
「……買いすぎじゃない? 言ってくれれば、あげるのに」
「いや、兄貴が書いてお前が編集した小説だと思ったら、つい。それにその本は、ふたりの大事な馴れ初めだろ」
稀斗はそう言いながらニヤリと笑ってネクタイを緩めると、クローゼットのある寝室へと姿を消した。
確かに、瑛莉菜が彼に恋をして、今もこうして稀斗の部屋で帰りを待ち、まるで新婚のように荷物を受け取ったりしているのは、この小説があったからこそだ。
稀斗は大手総合電機メーカーに勤めていて、法人営業部のホープで、しかもあの整った容姿ときている。