王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
確かに弥生の言うことは的を得ているし説得力もある。
禁断の青い果実をもう一度食べれば元の世界に戻れるというのも納得できたし、作者である弥生があまり物語に介入しては作為的になりすぎるし、それは避けた方がいいというのもわかる。
だけどそれだけを言い置かれて、ここにひとり取り残されるのはあんまりにも心細い。
そうしている間にも、エリナを探し草を踏み分ける足音が近づいてくる。
「だけど、いいかい?」
弥生はおろおろするエリナに「しっかりしろ」と言い聞かせるように、真っ黒な瞳に力を込めた。
「これはロマンス小説なんだ。禁断の青い果実を食べれば元の世界に戻れる。でも、一番重要なのはそれじゃない」
そして枝を蹴って飛び上がり、エリナの周りを低く旋回して風を吹かせる。
思いの外強い風に驚いて、エリナはきつく目を閉じる。
その風に乗って、エリナの耳には弥生の声がこだましながらはっきりと聞こえた。
「この魔法を解く鍵は、"真実の愛のキス"だよ」