王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
長いスカートが風に煽られ、頬の周りに残った柔らかな髪が巻き上がる。
それは突然彼女の身を包み、それこそ幼い少女の頃に戻ってしまったみたいに、不安と恐怖を呼び起こす。
いつの間にか当たり前のように感じていて、ひとりになることがこんなに怖いだなんて忘れていた。
ひとりでも平気。
働いて、生活をして、それなりに恋をして、ひとりでも大丈夫だって思ってたのに。
しかし不安を煽る突風も次第に和らぎ、春の香りを乗せた不思議に優しい風がエリナをそっとなでていく。
(真実の、愛のキス……?)
その不思議な感覚がエリナに運んできたものは、彼女の知らないものだ。
あたたかく包み込まれていると感じるのに、胸の奥はきつく締め付けられるように苦しい。
はじめて知る感覚だが、悪くはない。
そのくすぐったい感覚を、彼女にもたらすもの。
彼女の手をとり、優しく導いて抱きしめ、寄り添い合うことを教えてくれる人。
エリナはその誰かが遠くで自分の名前を呼んでいるような気がして、そっと目を開けた。