王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「エリー! やっと見つけた。なにしてるの、そんなところでぼーっと立って」
「……アメリア」
目を開いたエリナの空色の瞳に映ったのは、さっきその声を聞いて頭に浮かんだ通りの顔をした女性だった。
エリナと同じ深い緑色の侍女服を着た、仲のいい友だちでもあるアメリアだ。
遠くでエリナを呼んだ別の声の主どころか、黒いカラスの姿すら、もうどこにも見当たらない。
アメリアはほっそりした身体に、くるくるとカールする暗い赤毛と、グレーの瞳をもつ快活な女性である。
エリナは彼女の髪の色も瞳の色も好きだったが、アメリアはそうでもないらしい。
しかし自分の容姿を過度に気にするようなタイプでもなく、底抜けに明るいと言っていいほどあっけらかんとした性格だった。
「もうすぐウィルフレッドさまがお城からお帰りになるでしょ、支度をしないと。ほら、はやく」
アメリアは、はじめて小説の登場人物と会話し、そのあまりの自然さに驚くエリナの手を引いて、邸の中へ戻っていく。
(思い出そうと思えばそうできるし、目の前の人物が誰なのかわからなくなることもない)
それはエリナを不安にもさせたが、一方で不安を和らげる材料にもなった。