王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
ウィルフレッドはそれを単なる突然の結婚話への驚きととったようだが、そうではない。
(そうだった、ウィルフレッド・ランス公爵は"禁断の青い果実"を完成させるために、ウェンディとの結婚を命じられるんだ……)
その設定は、はじめから決まっていたことで、彼女も知っていることだった。
逆に言えば、この先のことは何もわからないのだが。
ウィルフレッドは禁断の青い果実に関わる神託と、そのためにこの結婚が必要で、1週間以内にはちみつを譲ってもらわなくてはならないのだということを聞かせた。
「コールリッジ伯爵令嬢が社交界嫌いだということは知っているだろ? ちょっと手強そうだから、手伝ってほしいんだ」
ウィルフレッドは困ったように形のいい眉を下げて微笑み、エリナにそう打ち明けた。
彼の弱った表情での"お願い"に、世の乙女なら一も二もなく頷くところだが、エリナは意地悪く口角を上げて嬉しそうに笑う。
「まったく珍しいこともあったものですね。ウィルフレッドさまが女性を口説くことに関して自信がないだなんて」
しかしその発言に驚いたのは当のエリナの方で、言われたウィルフレッドはケラケラと声を上げて笑った。