王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「小説は虚構の世界だけど、きみはここで"真実の愛のキス"を探すんだ。それが真実であるかどうかに、夢か現実かは関係ない」
白猫は手すりに寄りかかるエリナに身を寄せ、彼女の肩に匂いをつけるように頭を摺り寄せた。
エリナが腕を広げてやると、その両腕の中にすっぽりと収まる。
昼間のカラスよりはこちらの方がかわいいな、とエリナは思った。
「先生、言ってることが哲学的でよくわかりませんけど」
「がんばってるきみを、迎えに来る奴は必ずいるってことだよ」
優しく撫でてやると、猫は気持ち良さそうに目を閉じる。
エリナは月明かりに照らされて白々と光る毛並みに感心し、その背中を丁寧に丁寧に撫でた。
そして顔を上げて、銀色の月を見上げると、ぽつりと呟く。
「ただの侍女に、王子様は現れませんよ」
戸惑いと躊躇いは、今日でおしまい。
(私は明日から、ここでちゃんと侍女になる)
しばらくして白猫はしゃべらなくなったので、そこに弥生がいるのか、それともただの猫に戻ったのか、エリナにはわからなくなってしまった。