王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
ちなみにエドガーのおおらかな性格とウェンディの繊細な容姿は、どちらも母譲りである。
しかしウェンディの知性は、もしかしたら父から譲り受けたものかもしれない。
(とにかく今夜は、がんばらなくては)
ウェンディが舞踏会に出席するのは本当に久しぶりのことだ。
家族は誰も彼女を無理に社交界に出そうとはしないが、結婚してくれたほうがいいのは当たり前で、ウェンディはもう十分にその年齢に達している。
社交界での様々な思惑が絡む駆け引きは苦手だったが、素敵な紳士との恋を望まないわけではない。
結婚願望は人並みにあったし、むしろロマンチックなおとぎ話は好きな方だ。
ウェンディのその純粋な恋への憧れが、彼女に近づく男たちの邪な気持ちに敏感にさせ、社交界嫌いを助長していると言えなくもなかったのだが。
しかし今夜の舞踏会は全員が身分を隠しての参加であるし、流行りの仮面舞踏会を模して目元を簡単な仮面で覆うのだとか。
そのことが、ウェンディの背中を後押ししている。
(今夜の舞踏会でなら、見つけられるかもしれない)
本当のウェンディを見てくれる、本当の恋の相手を。
ウェンディは緊張と不安に高鳴る胸の鼓動に微かな期待を織り交ぜ、窓の端に見えはじめた城をじっと見つめ続けた。