王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

舞踏会が始まって1時間が過ぎた頃、やっとウェンディの目撃証言を得た。

一度見たら忘れられないという、はちみつ色の髪をもつ彼女が、中庭に出て行くのを見たらしい。


とにかくはやくウィルフレッドに知らせなければならない。


「しかし、私はあなたのその黒髪の方が魅力的だと思いますよ。たくさんの男性と踊っているというのに、上品で淑女的でなんともミステリアスだ。どうかな、ホールを出てふたりきりで少し散歩でも……」

「本当にありがとう! あなたとお話ができてとても楽しかったわ。それでは、素敵な夜を」


エリナは自分にできる限りとびきり優雅に膝を折ってみせると、くるりと背中を向けて小走りに駆け出した。



舞踏会が始まってから、会場には絶えず明るい音楽が響き、高い天井と広いホールには人々の楽しそうな声が溢れている。

1年に一度の王宮舞踏会は、結婚相手を探す絶好の機会だ。

同時に社交界デビューが行われるのも大抵この日で、誰も彼もが待ちに待っている1日なのだ。


だから仮面舞踏会を模してはいても妖しい雰囲気はほとんどなく、唯一気になることと言えば時折ぴったりと身を寄せた男女が中庭に消えていくことくらいだった。
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