王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
音楽に合わせて足踏みする人々の喧騒を縫い、エリナはウィルフレッドの姿を探す。
王座の間と呼ばれるこの広いホールは細長い形をしていて、その左右には太い柱がずらりと並んでいる。
壁は贅を尽くした金箔で、最奥には小さな階段の上に王が座する豪華な椅子があった。
しかし今夜は身分を隠しての舞踏会とだけあって、国王はまだ姿を見せていない。
というより、どこかに国王や王子が紛れていてもわからないほど人が多かったし、今のエリナにはそちらに注意を向けるほどの余裕もなかった。
ホールの端のほうまで来たとき、きょろきょろと辺りを見回すと、ミッドナイトブルーのジャケットに包まれた見慣れた背中が、たくさんの乙女に囲まれているのを見つけた。
彼はまわりの女性から次々にとんでくる質問に笑顔で答えながら、周囲に視線を彷徨わせ誰かの姿を探している。
「ウィルフレッドさま!」
エリナが勢い込んで声を掛けると、ウィルフレッドはくるりと振り向き、飛び込んできたエリナを受け止めた。
「あっ、あの……!」
頬を朱くしてはやく伝えようとするあまり言葉に詰まるエリナに小さく笑いをもらして、それからわざとらしく厳めしい顔をする。