王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「今夜は身分を隠しているんだから、大きな声で名前を呼ばないでくれ。何やら男の視線をかき集めて僕のところに戻ってきたきみには、あちらでお仕置きが必要だね」


エリナがハッとして口元を押さえるのと同時に、ウィルフレッドの取り巻き乙女たちからは悲鳴が上がった。

ウィルフレッドはそんな彼女たちに愛想よく会釈をして言葉をかけると、突然現れたエリナの腰を抱いて壁際に向かって歩き出す。


ウィルフレッドを取り巻いていた女性たちには、当然、彼が誰であるかもわかっていただろう。

わざとらしく"お仕置き"だなんて言うから、エリナは一瞬で『理想の結婚相手』を射止めようとする令嬢たちの敵になってしまった。

もうあそこには戻れないなと思ったが、ウェンディの目撃情報を得た今、その必要もなくなったのだからまあいい。


エリナはぴったりとくっついて隣を歩くウィルフレッドにだけ聞こえるように、弾む小さな声で話しかけた。


「ある方が、コールリッジ伯爵令嬢がひとりで中庭に出て行くのを見たと」

「本当に? それは確かにマズいな……。はやく行って捕まえないと」


ウェンディはウィルフレッドより11歳年下だが、彼はまるで子猫か何かを捕まえに行くかのように呟いた。
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