王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「ヴェッカーズ伯爵。察しの通り、俺にはあなたに協力をお願いしなければいけない理由があるし、そのためなら何でもする。だが、彼女を取引の材料にするようなマネはナシだ」
ランバートを見据える男の静かな声には、微かな怒りと非難が込められていた。
(艶やかな黒い髪に、不思議な青い瞳……もしかして、この人……)
自分を抱きしめる男は、もしかしたらこの国の王太子ではないかと思い至った。
つまり、王子さまである。
これまで直接王子に会ったことはなかったが、ウィルフレッドと仲のいい従兄弟である彼なら、エリナの容姿を知っていても不思議ではない気がする。
たぶん、ウィルフレッドの話に聞いたことがあったのだろう。
それなら先程の"やっと会えた"という言葉の意味もわかるし、エリナを庇うようにして怒ってくれるのにも納得だった。
「ランス公爵と殿下のお気に入りの女性ですか。ますますそそると言ったら、王子はお怒りになるかな?」
ランバートの挑発とも取れる物言いに、王子は低く毒づきながら、エリナを庇うように背中に隠した。